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福岡高等裁判所 昭和26年(ネ)712号 判決

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出援用認否は、被控訴代理人において被控訴人が昭和二十二年四月五日本件手形を紛失したことはこれを認めると述べ、控訴代理人において被控訴人は本件約束手形金債権につき昭和二十四年一月中福岡簡易裁判所に支払命令の申立をなし、該支払命令は同年二月七日控訴人に送達されているけれども、被控訴人は当時既に本件手形を紛失し、手形を呈示することは不可能であつたのであるから、右支払命令の送達は時効中断の効力を生じないものである。なお被控訴人は昭和二十六年三月二十日福岡簡易裁判所において本件手形につき除権判決を受けているけれども、それは既に右手形債権が時効により消滅した後のことであるから、いずれにしても被控訴人の本訴請求は失当として排斥せらるべきものであると述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用することとする。

三、理  由

控訴人が昭和二十一年二月十八日被控訴人に宛て金額二万千百円、満期日同年十月三十日、支払地福岡市、支払場所株式会社帝国銀行福岡支店、振出地福岡市とした約束手形一通を振出したが不渡となつたので、右当事者合意の上手形を書替えることとし、控訴人は昭和二十二年二月二十八日被控訴人に宛て利息を計上して金額二万四千五百円、満期日同年三月三十一日とし、その他の記載事項は前記手形と同様の新手形即ち本件係争の手形を振出し、被控訴人が所持人として満期日に支払場所において手形を呈示して支払を求めたが拒絶せられた事実竝びに被控訴人がその後昭和二十二年四月五日右新手形を紛失した事実は当事者間に争がない。

控訴人は右手形債務は三年の消滅時効完成により消滅した旨主張し、被控訴人は本訴の提起により時効は中断せられた旨抗争するので、この点について判断するのに、本件記録に徴するときは被控訴人は昭和二十四年二月七日福岡簡易裁判所に対し前記書替前の旧手形につき支払命令の申立をなし、該支払命令は同年二月九日控訴人に送達せられたが、控訴人より右支払命令に対し異議の申立がなされた結果、通常訴訟手続に移行し、訴訟進行中昭和二十五年六月十二日の原審口頭弁論期日において訴を変更し、書替後の新手形に基く請求に変更したことが明かである。

ところで手形は絶対的有価証券として手形上の権利は手形と分離して存在しないものであるから、手形を所持しない者は除権判決を受けない限り、手形上の権利を行使し得ないものであるところ、被控訴人が本件手形を昭和二十二年四月五日紛失し現にこれを所持しないことは前認定の通りであり、又前記書替前の旧手形と書替後の本件新手形とが同一性を保有するものとして旧手形に基く前記支払命令の送達が本件手形債権の請求と看做されると仮定しても、右旧手形は何等反証のない本件においては新手形に書替の際控訴人に返還せられ、被控訴人においてこれを所持しないものであると認むべきであるから、いずれにしても本件裁判上の請求は手形の所持なくしてなされたものであつて手形債権の請求としてはその効なく、時効中断の効力を生じないものといわなければならない。尤も成立に争のない甲第四号証によれば、被控訴人は昭和二十六年三月二十日福岡簡易裁判所において本件手形につき除権判決を得たことが明かであるけれども、右は三年の時効期間経過後のことに属するから、叙上結論に何等消長を及ぼさないものというべきである。

而して他に時効中断事由の存することについては何等の主張立証がないから、本件手形債務は三年の消滅時効完成により消滅したものと断ずべきである。

よつて控訴人に対し右手形金及びこれに対する利息の支払を求める被控訴人の本件請求は失当として棄却するの外なく、右と趣旨を異にし被控訴人の請求を認容した原判決は不当であつて控訴は理由があるから、民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小野謙次郎 竹下利之右衛門 中園原一)

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